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俺にとってのお気に入り(The One)を公開していくブログです。最近は目にしたものをどんどん書いていく形になっています。いっぱい書くからみんな読んでね。


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江國香織 『号泣する準備はできていた』

JUGEMテーマ:読書
 
おとといまで下田に行っていた。
自転車で行って、電車で帰ってきた。
サークルの合宿に行ってきたのだが、そこで後輩のカップルが誕生した。
ここ最近ずっと応援していたので、とてもめでたい気持ちになった。

帰ってきて、猛烈に寂しい気持ちになった。
自分に彼女と呼べる存在がいないことが、寂しかったわけではない。
そのカップルは、どちらも初めて男女交際というものをすることになるのだ。
これからの彼らの日々の輝かしさと、その輝かしさを失っていくさまを想像して、猛烈に寂しくなったのである。

家に戻ると、なぜか食卓の上に川上弘美の『おめでとう』があった。
あっという間に読んだ。
どうしたって二人はいつか終わる、ということを完全に受け入れた上で書いているその小説群に、寂しさはいっそうつのった。


もっと恋愛小説を読みたくなって、自転車でちょっと遠めの大きな図書館に向かった。
そこで借りてきた中の一冊が、江國香織の『号泣する準備はできていた』である。
直木賞を受賞した当時、俺は高校生だった。
たしか綿矢りさや金原ひとみの芥川賞受賞と同時期だったと記憶しているが、そのことがずいぶんと話題になって、普段は小説など読まなかったような高校生たちもこぞって読んでいた。
そのまま幅を広げて読み続けたとして、高校生の頃からこのような恋愛小説を読み続けた少女たちは、今ごろどうなっているのだろうか。
日ごろ飲み会で会うような、ノリを最重視するような女の子のなかにもそのような人はいるのだろうか。
もう少し人に踏み込んでみる努力をしてみよう、という気にさせてもらった。
久しく恋愛していない俺であるがゆえ。

それともう一つ、ニューヨークで出会った年下の女の子がいたが、けっこう仲良くしていたのにとてもつれない帰国のしかたをしてしまったことを思い出した。
一夜を共にした仲というもので、きっと彼女は俺のことなんてなんとも思ってないに違いない、と俺は思い込んでそれほど気にかけなかった。
しかしそう思いたかっただけなのかもしれない。
もっとやり方しだいでは、素晴らしい関係が築けたかもしれないのだ。
もっと、世界を恐がらず貪欲に生きていこうと思った。


ということを考えさせるぐらい、面白い短編集だった。
最初の「前進、もしくは前進のように思われるもの」を読んだ時点では大いに不安だったが、読みとおしてみると連作集としてみれば、まぁいっかと思える具合にはなった。
「熱帯夜」と「そこなう」が出色のできで、「煙草くばりガール」と「住宅地」はもっと書いてくれよ、と思った。
「熱帯夜」と「そこなう」は、まさに上で書いた寂しさみたいなものを見事に捉えてると感じて、感動した。
この幸福すぎる悲しみを味わってしまっては、もうあとには引けないのだ。

しかしほぼ全編で、生きようによっては世界はもう少し魅力的で面白いものになるだろう、とお節介を言いたくなったが、それはもしかしたら、俺がこのようになるのを恐れているからなのかもしれない。


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「人生は恋愛の敵よ」
私は最後にひとことだけ秋美に釘をさす。
「何のことだかわからないでしょうけど」
秋美は笑わなかった。きょとんともしていない。
「わかるわ」
と言って、スツールから降りた。
「じっとしてて」
私のうしろに立ち、背中を抱きしめて肩ごしに頬と頬をつける。
「人生は危険よ。そこには時間が流れてるし、他人がいるもの。男も女も犬も子供も」
しずかな声で囁かれ、私は根拠もなく安心してしまいそうになる。
「私のほうが、そうね、すこし社交的かもしれない」
秋美の髪が私の肩に触れる。それはやわらかくて軽く、もう濡れても湿ってもいない。
「でもそれだけのことだわ」
意志に反して、私の皮膚が秋美の皮膚を味わおうとする。過去も未来もなく、今夜どうしても。
「そしてね」
くくっと笑い声をもらし、秋美は言った。
「私たちは危険なものが好きだったでしょう? 忘れちゃったの?」
いつか、と私は考える。いつか、私たちは別れるかもしれないし、別れないかもしれない。
私はすでに、秋美以外の人間を胸の内で皆殺しにしてしまったのだ。

p.59〜60 「熱帯夜」より
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