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俺にとってのお気に入り(The One)を公開していくブログです。最近は目にしたものをどんどん書いていく形になっています。いっぱい書くからみんな読んでね。


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マーク・トウェイン自伝

JUGEMテーマ:読書








夕飯後に俺は皿を洗いながらAviciiの「Waiting for Love」を歌っていると、食べていた柿が喉に詰まったので、吐き出そうとしてむせた。
それを見ていた妻が、大きな声を上げて笑う。
心から可笑しそうに、笑いすぎて苦しくなってもおさえきれずにまだ笑う。

俺は妻に心を許している。
妻が俺に心を許す態度を見せてくれる事も嬉しい。
共に裸のままで、敬意を持って暮らしている。

もしも彼女が死んでしまったとしたら、俺はとても悲しいだろう。
動かなくなった彼女の姿に。
変わり果てた彼女の姿に。
生き物でなくなった彼女の姿に、すっかり何かを失った気持ちになるだろう。
そんなことを思うだけで、俺は悲しい。

「Waiting for Love」のビデオの爺さん、そんな感じの役だ。
男が妻を失う時、何かがごそっと持っていかれるらしい。



始めから終わりまで痛ましい、マーク・トウェインの自伝。
どこを読んでも華々しいまでに面白いのに、同時に胸をかきむしりたいほどの悲しみに満ちている。
自伝が終わりに近づけば近づくほど、自伝は冷え冷えと悲しく、痛ましくなっていく。


城山三郎の『そうか、もう君はいないのか』。
このタイトルがあまりにも痛ましく、何もかもを予期させて胸に刺さると、何人もの男が感想を書いている。
これも自伝である。
トウェインの自伝も、城山のそれも、ある日突然に筆が置かれて、そこで終わる。
そこから先、もう言葉を持っていかない瞬間だろうか。
それとも、言葉が生まれてこない瞬間だろうか。
もう、二度と取り上げられる事のない筆、二度と書かれる事のない言葉たち。

そしてたとえばディケンズが書いたように、誰もが秘密を抱えたままに死んでいく。
誰にも知られない秘密。
知らせようにも知られようのない秘密。
トウェインも、城山も、いまや墓に残るのもせいぜい骨ぐらいだろう。
他には何も残らない。
俺と妻も、一つにはならないまま、知らない事をたくさん残したまま死んでいく。
たくさんの時間を過ごして、たくさんの出来事を分け合って、別々に死んでいく。
それでも、出会えてよかったと、俺はきっと言える。


マーク・トウェインは妻に先立たれた後、最後まで身近に残ってくれた娘と共に暮らす。
トウェインには子が4人いた。
3人の娘と1人の息子だ。
息子は、1歳と10ヶ月で死んでしまった。
トウェインが子守をして無蓋馬車に乗った時、不注意で赤ん坊の体を冷やしてしまったのだ。
この場面は自伝に短く書かれているだけであるが、たったそれだけの文章でひどく胸をうつ。
トウェインの後半生は特に厳しかった。
事業に失敗して借金をつくり、その借金を返すために世界中を講演して回った。
そんな旅をしている時、アメリカに残してきた長女のスージーが死んだ。
妻のオリヴィアは、トウェインと出会った時から体が弱かった。
講演の旅を終えて、のんびりと休まる時もないまま、オリヴィアも死ぬ。
トウェインが苦しい時、いつも何かと世話を焼いてくれた、頼りになる次女のクララは、その後に結婚する。
結婚して、ベルリンに住まうようになる。
トウェインの身近に残ったのは、三女のジーンだけとなった。
それでも、愛する娘と二人で静かに暮らす事で、残り少ない日々も恵みのあるものになると、トウェインはそう思っていた。
そのジーンも、共同生活が始まって4日後の朝に急死する。
この7ヶ月前には、親友の編集者ロジャーズ氏も亡くなっている。
トウェインがロジャーズをどんなに頼りにしていたかは、カーネギーも自分の自伝に書いている。
トウェインには、誰もいなくなってしまった。

ジーンの死を記す、自伝の最終章はもちろん、悲しみに満ちている。
しかし、トウェインは勇敢にもこう記すのだ。
「夢は実現した」。
「正夢はまるまる2日もつづいた」と。
トウェインが家に帰った翌日と、ジーンが息を引き取る前日。
そのまるまる2日間が、トウェインと娘の「確かに一つの家族」としての生活だったと。
この悲劇に呪いを吐くのではなく、実現した2日間に感謝を告げるのだ。
勇気とは、こういう事だと俺は思う。
人生に素晴らしい瞬間があったのなら、それが20年間つづこうと2日間つづこうと、どういう違いがあるだろうか。


俺は、妻と出会えて、こうして共に暮らしている事に、こんな感謝を告げたいと思う。
どんなに辛い事が待っていようと、俺は恨みや呪いの言葉は吐かない。
生まれたから、出会えたから、素晴らしい時間があったからこそ、辛い事も起こるんだという事を忘れない。
父と母に、ありがとう。



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posted by kach 23:55comments(0)trackbacks(0)





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